300 年住宅の最大の目的は、建物の資産価値を保全し、土地から建物への価値の変換を行うことにより、健全な集合住宅への投資を促進し、社会ストックを建設することにあります。

 世界には300 年、500 年という時を刻みながら保全されてきた街や建築が数 多く存在しています。ですから、建築の歴史的事実から推測すれば、マンショ ンにおける300 年間にわたる保全も不可能なものではありません。

 もちろん、ここで言う「300 年住宅」というのは、「300 年の使用に耐え、住 宅としての機能を保全できるマンション」のことです。たとえ建物自体は残っ ていても、使用に耐えないものは、「300 年住宅」とはいえません。

 これまでの日本の多くの建物は、スクラップ&ビルド(壊しては建てる)の 繰り返しを続けてきました。これでは、経済的にも資源的にも環境的にも行き 詰ってしまいます。

 たしかに、メンテナンスフリーで300 年の時間に耐えうる住宅は存在しませ ん。それは、建築は、異なる材料・部材の集合体であり、何も処置を施さない ミラノの教会などは、完成まで200 年以上かかっているものも珍しくありませ ん。このように100 年単位の歳月をかけて作ろうという考え方がある、という ことがひとつの視点です。

 教会は地域のシンボルとして永遠性を求められます。そのため教会の外壁は 砂岩や大理石などの耐久性のある石でできています。しかしながら石と言えど も100~150 年で割れたり、風化したりします。そのため、50 年、70 年といっ た年月で修理をすることが必要になります。いつもどこかを修理しています。 この修理できる、また、修理しやすいシステムを有していることも、私たちは 見落としてはなりません。

 フィレンッツエの大聖堂(ドォーモ)の写真を見ると外部に穴が開いているの が良く判ります。地面から足場を架けるのではなく、この穴を利用して足場を 架設します。映画の中では、ミケランジェロがシスティナ大聖堂の天井のフレ スコ画の改修をしている時に下ではミサが執り行われていたというシーンがあ りました。ヨーロッパでは古くから改修することを念頭に建物が造られている ことがよく解ります。

 つまり石でさえ、永遠とするのではなく、100 年という単位で見なければい けないのです。

 これまでのように“技術”のみを追求してきた日本の建築では、結果として たとえ建築としての空間は残ったとしても、住宅としての機能が消滅してしま うことが起りかねません。これでは、300 年という時間にわたって建物を保全 することはできないのです。

 そこで、“マネジメント”の概念を導入し、“技術開発”と“マネジメント” の2つの方向から300 年の時間に対応できる体系が必要と考えました。 “技術開発”とは、300 年の時間に対して建物を保全するための具体的な目標 を設定し、その方法論を組み立てることです。“マネジメント”とは変化するも のと変化しないものを予測し、建物と資産価値を保全するための仕組みを構築 することです。

 「300 年住宅」はこの2つの方向から、いままでのマンションのあり方に対し て5つの変更点を加えることにしました。それによって、300 年間の耐久性と 資産価値の保全を実現することを試みました。
 (1)50 年を目標に共用の配管すべてを 取替えが出来るようにする。
 (2)メンテナンスフリーで300年間もつフレームを作る
 (3)空間の自由性
 (4)組織(管理management)
 (5)経済性の変更

  300 年の時間に対応するものは、住宅としての機能と資産価値の双方を含み ます。ですから「300 年住宅」とは狭義においては商品のことを意味し、広義 においては資産価値、あるいはそれを維持するシステムまでも含むことになる のです。それによって、真に消費者の利益となるマンションを生み出すのです。

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